「大学病院などの大病院には、豊富な症例や高度な知識が蓄積されているはずなのに、どうしてそれらがすべての医療従事者や患者と共有されていないのだろう?」この疑問がメディカル指南車を発足させる動機になりました。
各大学に所属する専門医の先生方を中心に、専門知識をお持ちの医療従事者の皆様に集まっていただき議論した結果、医療の知識・経験や症例を共有する仕組みがないということに気づきました。また日本はOECD加盟国中でも人口あたりの医師の人数は最低であり、医療従事者に大きな負担がかかっていることも知りました。そこで私の専門である知識情報処理の技術を応用して、コンピュータに医療の知識・経験や症例を教え込むことにより、医療のレベル向上と医療従事者の負担軽減を同時に達成できるのではないかと考えました。
そこでまず胸部X線における画像診断の知識・経験や症例をコンピュータに教えることに取り組みました。とはいってもどのようにデータを構造化していけばよいのかがわからず、試行錯誤が2年間続きました。専門医は情報処理の専門家ではありませんので決して「こうすればよい」とは言ってくれません。私が「これでどうですか」と提案するとダメ出しをされるという日々が2年程度続きましたが、少しずつ私の提案に「なるほど」といってもらえることが増えていき、現在のデータ構造にたどり着きました。胸部X線では画像診断に必要な要素(語彙)は約6,000エレメント、その組み合わせは30万通りになります。
昨今、Chat GTPなどAiがもてはやされていますが、人の生死にかかわる医療情報は、確かなエビデンスと共に利用する必要があります。メディカル指南車では苦労の末にたどり着いたセマンティック・ネットワークと呼ばれる知識情報処理を応用し、画像診断の知識・経験や症例を医療従事者が理解できるように確かなエビデンスと共に提供することに成功しました。その結果誕生したのが「画像診断ナレッジサービス「読影指南」(英語名:Diagnostic Imaging Tutor)です。このシステムは医療従事者のスキルを向上させつつ、画像診断をサポートすることができる数少ないシステムです。
私自身、救急で搬送された病院で急性胆嚢炎を胃炎と誤診され、急性胆嚢炎と気づいたときにはすでに胆嚢が肝臓と癒着していて緊急の開腹手術を余儀なくされた経験があります。その結果、1年くらいは傷口が痛みました。救急で搬送された際に腹部超音波で検査していれば急性胆嚢炎と気づいたはずです。このような医療過誤をなくして、患者がどの病院を受診しても安心して医療従事者に任せられるようにするためにも、医療従事者の皆様には常に「画像診断ナレッジサービス「読影指南」(英語名:Diagnostic Imaging Tutor)を手元においていただきたいと思います。今後もこれまでに取り組んできた理念を継承し、患者の皆様が安心して受診できるように医療レベル向上に貢献していきたいと思います。
笹井 浩介
笹井 浩介